資産運用“知ってる度”アップ講座・第4回

第4回 もしも私が指揮者なら

今年の就職活動は6月から面接解禁。自身の就職活動を思い起こせば、90年代のバブル崩壊直後。まだ、その残り香が十分に漂っており、面接もどちらかというと気合と根性が試される昭和的な雰囲気のものが多かったと記憶しています。

そんな当時の就職活動と比べると、現代の就職活動はまるで情報戦のように感じられるのは私だけではないはず。インターネットはビジネスのあり方を変えたと言われますが、就職活動の進め方においても同じでしょう。しかし、その一方で、絶対に変わらない点も存在します。それは、採用側である企業が優秀な人材を確保したいとの思いです。この思いは、少子化や事業環境の複雑さが増していることもあって、むしろ、以前よりも強くなっているかもしれません。

採用側の企業にとっての問題は、優秀さをどのように定義しておくかという点でしょう。自分自身の経験に照らし合わせれば、各々の個性が明確、かつ、多様性を有している世代に優秀さを感じてきたことが多いように思います。採用というのは、個の優秀さの追求のみならず、全体としてバランスをとりながら組織レベルの向上につなげていく視点が重要なのでしょう。

ちなみに、新卒社員の採用、あるいは、社内のチーム編成にかかる考え方は、資産運用の実践において「どの資産に、どれだけの資金を配分するか」という問題に酷似しています。投資資金の全てをある特定の株式に配分するのか、それとも、複数企業の株式に銘柄を分散して投資するのか。あるいは、株式に加えて、債券などいくつかの資産に分散して投資を行うのか。チーム編成の組み合わせは無限であり、一体、どのように決めればよいのでしょうか?

その際に手助けとなるのが、第3回の講座で取り上げたリスク量です。自分が背負えるリスクがどの程度なのかを検討し、そのリスク水準に合わせて資産配分を決めることができます。背負うことのできるリスク量がわからないときには、代表的な資産のリスク量や、その資産の過去の値動きを見ながら検討すべきでしょう。背負うリスク量を決めたら、今度は、どのような資産の組み合わせがよいのかを決めていきます。ここでポイントとなるのは、目安のリスク量を保ちながら、いくつかの資産を組み合わせていくことです。なぜか?例えば、投資先の国をいくつかに分散させておけば、ある国で何か予期せぬ出来事が起こった場合でも、資産全体への影響をある程度抑制することが期待できるからです。同じリスク量を背負っていても、リスクの根源を分散させておくことで、資産運用の果実を安定化させるのが狙いです。ちなみに、ここで出来上がった組み合わせを資産運用業界ではポートフォリオと呼びます。

同じリスク量でも組み合わせ次第で期待リターンは異なる 国内株式100%、国内リート76.6%・先進国リート16.3%・新興国債券7.1%

出所 Bloombergを基に三菱UFJアセットマネジメント作成 期間 2005年12月~2017年4月、月次
※国内株式に100%投資した場合のリスク量18.6%と同リスク水準になり、かつ期待リターンが最大となる、8資産(国内債券、先進国債券、新興国債券、国内株式、先進国株式、新興国株式、先進国リート、国内リート)の組み合わせを算出。

著名な経営学者のP・F・ドラッカーは、組織のマネジメントに関して「偉大なソロを集めたオーケストラが、最高のオーケストラではない。優れたメンバーが最高の演奏をするものが最高のオーケストラである」との言葉を残しています。この文脈において、演奏結果への責任はオーケストラの指揮者が負うことになりますが、オーケストラをポートフォリオに置き換えてみると、その考え方は分散化されたポートフォリオの有用性と、その保有が指揮者にとっては自然な選択であることを示唆してくれます。つまり、資産運用の名指揮者なら、失敗が許されない演奏であればあるほど、分散化ポートフォリオでの長期運用を指向するはず。そういう意味では、本物の指揮者になるよりも、資産運用の名指揮者になるのはずっと簡単かもしれませんね。

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